奮闘記 in KOLKATA




Incredible India
インド政府観光庁がポスターに使っているキャッチコピーである。
もちろん、incredible を“信じられないほど素晴らしい”の意味で使っている。
最初このコピーを見たとき、思わず苦笑いした。
何故って?
とんでもない目にあった時やあきれる行ないに出くわした時に、
“有り得な〜い!”、“まさか! 信じられな〜い”と、
好ましくない意味で使っているからである。
日本的感覚で他国の文化・習慣を比較してはダメ、
といつも自分に言い聞かせてはいるものの、
よろしくない incredible をつい口にしてしまうことがまゝある。
土地探しの一件をご紹介しよう。
ここグプタ家のご主人アルジュンさんが、年一度の帰省で日本から帰っていた12月、
一緒に土地物件を何度も見てまわった。
彼は一年半前から出身地ビハール州の無医村地帯で移動診療を始めていて、
その活動の母体としてNPOを設立した。
彼自身はNRI(Non Resident Indian インドに居住していないインド人)であるため、
NPOの理事長は私の名で登録されている。
名ばかりの理事長である私が、思うところあって新しいプロジェクト構想を温めていて、
まずは適当な土地を探したいと考えた。
諸物価高騰するインフレ傾向で、地価も毎年グングン上がっており、
買得あれば早めにとの魂胆である。
地価はこちらで通常カッタ(約10.2坪)という単位でやりとりしていて、
1カッタ相場は8000Rs.〜200,000Rs.= 13,000円〜330,000円。

まずはオーナーと直交渉の場合。
インドで最初にできたコルカタの地下鉄、ここ3年で南に7駅延伸し、
同時にその駅周辺の土地は数倍に高騰したという。
中心部が飽和状態で、アパート群が近郊へと
どんどん広がり始めたことも影響している。
最初に見たのは、グプタ家の最寄地下鉄駅から3つ目の駅で降り、
オートリクシャーで約10分のところ。
オーナーは祖父が遺した数か所の広い空き地を兄弟7人で所有し、
値さえ合えば売りにかかっているのである。
自宅へも行ったが裕福な公務員で見かけは温厚そうでもなかなかに欲深そう。
Charitableな利用目的だからと訴えても、まるで関心なさそう。


オーナー直やりとりで最初に見た土地

土地は道路から1メートル以上は低いため、盛り土して整地する必要がある。
おまけに2軒の居住者には移転してもらわねばならない。上下水道もない。
決まれば強固な塀も必要だ。
これインドでは当たり前で、塀もなく更地のまま置いておくと、
誰かが資材置き場か何かで勝手に使い、やがて「これは自分の土地だ」と言い出す。
登記簿などお構いなし。裁判沙汰になると何年とかかり弁護士費用も要るという訳。
勧められた他の土地も見たが、中心部から近いことだけが
メリットとも言えそうなうえに、価格交渉となるとオーナーが何度も約束を守らず、
電話するから、会いに行くから、の空返事の連続。
ついにこちらも意志喪失。

次にブローカーを介する場合。
アルジュンさんとタクシーで向かい、途中でブローカーを拾った。
乗ってきたのは二人。ビジネスマンといった風体では決してない。
市街地から30分ほど走ったあたり、バス道路の両側に耕作地でもない未開地が広がる。
「あそこは○○学校が買った、寄宿制の女子校だ」
真新しいモダンな校舎が建っている。
「ここには映画スタジオができる」…と、あたりの人気度ぶりを説明してくれる。
確かに市内の汚染空気や騒音とは無縁で、
さして遠くないところにのどかな風景が広がるのは感激だった。
バス一本で来られるし、上水道もOK。盛り土は必要だが環境的には申し分ない。
同じエリアで3ヶ所案内してくれた。そのたびに別の業者らしき男が現れる。
めぼしい土地の価格やりとりになると、ある一軒の内装工事屋に案内された。
そこの若い主人が土地のオーナーに電話をする。
見えてきた構図は、オーナーは一人、物件ごとにブローカーがいて、
それぞれに橋渡しするブローカーがいる(タクシーに乗り込んだ二人)、
そしてオーナーとの窓口は先の内装工事屋。
従って、物件が決まれば、少なくとも3〜4人が仲介料を分けるという訳だ。
この日はオーナーがつかまらず、アルジュンさんが後日電話すると、
なんと一番候補の土地はオーナーが今売る気がないとのこと。
あっけない幕切れだった。
不動産に詳しくて信頼できる人物がこちら側にいなければ、
この世界とてもとても手ごわいのだ。
日本でいう宅建資格の有無など頓着なしの仲間うちを相手に、
法的問題をクリアーするには弁護士がどうしても必要となる。
誰をどこまで信じられるか、incredibleな体験に打ちのめされないためには、
自分がより多くを識り、ブレーンを味方にするしかない。


Incredibleのおまけ
「死を待つ人の家」Kalighatの改修工事は遅々としている。
久しぶりに様子を見に行ったが、シスター長も焦り気味だった。
当初3ヶ月で完成予定が、すでに一年半過ぎ、
3月末には絶対終わらせるとシスターが言明してからもペースアップはならず、
8月22日の設立60周年記念日という最後期限というのもあやしい、とは私の推測。
どう考えても“有り得ない”約束期日を延々引き伸ばし続けるのも、
まぁー、日常茶飯事で驚くに足りない。
契約書なるものがどんな内容なのか気にはなるが。
世界を相手にする最先端のビジネスの世界ではこうではないらしいから、
誤解のありませんように。


一年半でこの状態、あと半年で完成するとは思えないカリガートの工事現場


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