笑・プラザ


OKADA'S BACKNUMBER

「しのぶちゃん、かずちゃん、れいこちゃん、まこちゃん、ゆうちゃん。
みんな、毎日退屈だろうね。
早く、着飾って外へ出られるようになるといいよね。
チャンバラごっこだってしたいよね」


「ウン、おばあちゃん、そうしたいよ」「やりたい」

いたわる眼差しと、取り囲み、すがる眼差しが絡み合う。
ここは、片山村の水害避難所。
いつもはサラサラ小川が、ここ一ヵ月降り続く雨のために、
ゴーゴーとうなりを上げる濁流になり、沿岸の57戸に避難命令が出て、
高台の小学校への避難を余儀なくされた。

ここに来て半月余りが過ぎたが、雨は強く弱く降り続いて、
不自由で窮屈な生活のために、しのぶだけでなく、
小さな子は、皆、精気を失っていた。

この有様を見かねた富江おばあちゃんが、
周りの子供たちに、楽しく話しっこしようよと呼びかけたのだった。

車座になった子らは、最初は、ポツリ、ポツリとしゃべるだけだったが、
そのうちに調子が出て来て、
村祭りで、みんなで子供花傘を踊って、すごく褒められたこと、
下川の淵の河童退治に行って、溺れそうになったこと、
おじいちゃんのつき上げたあんころ餅のうまかったことなど、
目をまるくしたり、笑い転げたりして、束の間、苦しさを紛らわすことが出来た。

こんな毎日で2ヶ月経って、やっと家に帰れる日が来た。
富江おばあちゃんとしのぶの家は、帰ってみると、
1階の半分ほどが土砂に埋まっていたが、幸いに倒壊はまぬがれた。
息子夫婦は、しのぶを連れて帰郷したところを、この避難騒ぎに巻き込まれ、
おじいちゃんは既に逝って一人暮らしになっている富江を守るために、
やむなく東京の勤め先を長期災害休職にしていたのだった。
しかし、後片付けには何日もかかることから、
これからは消防団の力を借りることにして、あさって帰京することになった。
その夜、まだ、電気が来ていない2階の寝室で、
富江は、しのぶの小さな手を握りしめながら、皆に話しかけた。

「今度ばかりは、自然の恐ろしさをつくづく思い知らされました。
この様に切羽詰まった時には、自分の身は自分で守らざるを得ないけど、
やっぱり、小さな子の命はみんなで守らんとね。
特に年寄は、自分の身を投げ打っても、子供を守る覚悟がいると、改めて悟りましたよ。
なんか、大きな使命みたいなものに気付いてこそ、
先々の生き方がしゃんとする気がしますよ。」


「おばあちゃん、着飾って、東京見物、いっしょにしようよ」

「ああ、そうしましょう。楽しみだね」



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