笑・プラザ


OKADA'S BACKNUMBER
笑・プラザ

大阪の夏は暑いな。田舎で暮らしていたから余計にこたえる。

大学は出たけれど自分にピタッと来る就職先が見つからないうちに、
親父が世話になった人から強く頼み込まれて、この会社に入ることになった。

会社は、60才以上の従業員10人という小さな会社だが、
みんな真面目で親切で雰囲気はとても良い。

仕事は、施設や機械の難しいクリーニングをやるという基本方針でやっているので、
価格競争に巻き込まれることも少なく、給料も悪くはない。

こんな仕事は、学生時代に全く想像していなかったので、
かなり考え込んだが、このように決断した。

{最初の3年間は、広く社会勉強とビジネスの組み立て方について勉強をする}

{次の3年間で、将来の人生の基礎固めをする}

このことは、社長に自分勝手な奴と思われたくないので、
社長とじっくり話して、決意表明の意味で給料も3年据え置きのまま、
パート社員扱いでいいという取り決めをした。

何か月か経って、上司の勝盛さんから与えられた仕事が、
自分の生き方を決定することになった。

「実はな、うちの上得意の洋野さんから頼まれたんだが、かなり難しい仕事なんだ。
洋野さんは大津市に別荘を持っているんだが、長く使っていないんで、
それを洋野商事の保養所にしたいんだそうだ。
それに先立って、丸ごとクリーニングを頼まれたんだが、
難物はコンクリート外壁にはびこった黒カビなんだ。
普通なら薬品使って取り除くんだが、
厄介なのはコンクリート外壁が特殊防水処理されているんで、薬品はダメ。
サンドブラストや高圧洗浄機で削り取りもダメという条件が付いているんだな」


「ウーム。それなら、手間がかかりますが、スチームをつかわざるをえませんね」

「だろうなあ。一度、下見して計画立ててくれないか」

現場を調べてみると、北側の雑草に取り囲まれた所が、
5平方メートルぐらいカビが頑強に取りついていて、
スチームしか手が無いことがわかった。

勝盛さんと出かけた。

二人で、高温スチームを噴射してカビを殺し、
ブラッシングするが、ほんとに少しずつしか取れない。
それでも止める訳にはいかないので、7時間頑張った。

日も暮れたところで作業を打ち切った。

「随分きれいになったが、やっぱり薄く跡が残るな。
これ以上は無理だから、写真を撮って社長や洋野さんに見せて、
どうするか決めてもらおう」


帰りの軽トラを運転しながらも、カビの事が妙に頭から離れなかった。
カビのしぶとさには恐れ入ったな。
がっしりと根を張って、決して全滅しない。
地球上の生き物が滅亡することがあっても、カビだけはどこかで生き延びるんだろうな。

こりゃあ、自分の生き方も、もう一度見直さんとな。
がっしりと根を張って、何があっても生き延びるような生き方。
うん、こうしよう。

この3年間では、この会社が持っている難しいクリーニングのノウハウを、
細大漏らさず記録して会社の財産として残そう。
お世話になった御礼の意味でも。

そこで退社となるが、次の3年間は洋野さんの会社が
インドネシアで色々な取引をなさっているから、強くお願いしてその国で働かせて頂こう。
できる事なら、なんでもやる。
これから伸びる国で、自分の成長に役立つことなら、なんでもやってやる。
ウン、やるぞ。

こう、心が決まると、なぜか武者震いした。
ハハ・・・若者の甘い夢と云うなかれ。
試練に立ち向かうのに、自分には、カビという凄い味方がついているんだ。



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