笑・プラザ


OKADA'S BACKNUMBER
ホールを包む森の桜が満開になる頃、この音楽アカデミーの発表会が行われる。

発表者も年々増えて、大人だけで26人の定員いっぱい、子供は100人を超える。

演奏のレベルも、大人の部には、セミプロ級も数人生まれ、
他の人達に、強い刺激を与えている。

こんな雰囲気の中で、尾花さんは、大人の声楽の部のトリを務めた。
終わると同時に盛大な拍手と花束も頂いたが、
なぜか、尾花さんの表情は硬かった。

それは、自分の前に発表した女性二人が、
ベッリーニ作曲の歌劇「ノルマ」を、
実に伸びやかな高音と豊かな声量で見事に歌い上げ、
ブラボーの声が飛び交う熱狂ぶりを目の当たりにしたからだった。
それは、もう、プロのリサイタルレベルで、
仲間も驚くほどの出来栄えだった。
この人達こそ本物のトリに相応しい実力者なのに、
自分がトリに指名されたのは、発表会の最後を、
身近で心に沁みる曲で締め括って、
一般来場者とこのアカデミーの
心理的な距離感を締めたいという先生の考えからだった。

更衣室で舞台衣装を脱ぎ捨てた時、尾花さんは、秘かに決断した。

<自分の役割は終わった。
これまでの発表会でも、何度もトリを務めたが、
それはそれなりに実力も伴っていたように思う。
だが、後から入って来た人の中には、
才能豊かで、どんどん伸びそうな人も多くなった。
今回のトリは、今までのトリとは意味が違う。
いわば、宣伝勧誘役を果たしたに過ぎない。
このままやり続けていても、自分の立ち位置は、ズルズル下がるだけ。
こればかりはプライドが許さない。

来年から出場は取りやめよう。
そして、今の、力衰えた自分と正面から向き合って、別の世界に挑戦しよう。
然し不思議だな。
こう割り切ったら、なんか、気持ちが楽になって、
むしろ解放感に満たされたような気分だ。
随分気張って無理してたんだな。アッハッハ>

他から見れば、こんな尾花さんの態度は、負け惜しみのように見える。
しかし、どんな集団でも、常に新陳代謝して、
より強い者に将来を託すのは当たり前のこと。
尾花さんには、転機をしっかり感じ、
今の状態にしがみつく事無く、次の挑戦目標を定める強さがあった。
潔い尾花さんに幸あれ。



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