笑・プラザ


OKADA'S BACKNUMBER
・「どうぞ私の先にレジしてください」
ショッピングカートに商品山盛りの奥さんが、一つだけ食パンを持った後ろの老人に声をかけた。
自分のレジが長くかかるので、お先にどうぞの親切。



・「すみません。私はこの駅初めてなので、どこか近くで、手軽に昼食を摂りたいのですが」
孫らしい小さな男の子の手を引いた女性が、駅の観光案内所で声をかけた。

「エーと、なんでもいいですか。そうですね、地図じゃ分かりにくいでしょうから、ご案内します」

行き着いた店は、大きな商業ビルの2階にあって、
見つけにくい所だったが、いろいろなメニューがあって、感じもいい店。
観光案内人は,皆、高齢者ばかりでも、親切をモットーに、動き回るのをいとわない。



・「すみません。メモリーホールには、どう行けばいいんでしょうか」
「ああ、メモリーホールなら、この道まっすぐ行って、
三つ目の信号を右に曲がれば、すぐに見えてくるよ」

初老の紳士が声をかけた相手は、杖にすがって一足歩くにも、
足が一足分も出るか出ないかと思われるほどの、歩行困難な高齢のおばあさん。
しかし、その声はとても大きく、凛とした響きがあった。
田舎で、自分一人で、何にでも立ち向かって来た人は、
最後まで頑張って生き抜く強い芯を持ち合わせているし、誰にも親切。



・「この町は、とても気に入っています。大阪市内の中学校の教師を定年で辞めたら、
九州の田舎にそっくりのこの田舎町に、移り住んでみたくなりましてねェ」

淡々と語りながら、その眼は、遠く過ぎ去った日々を思い出すように和んでいる。
聞けば、夫婦ともに70歳を過ぎた年に、
残り人生は、地域の人々のために役に立つことをしようと話し合ったとか。
そこでご主人は、地域の特養ホームで週に2回、童謡やカラオケを歌って、
入居者を慰め、奥さんは、その歌詞を大きく書き出したり、
高齢者クラブのメンバーと一緒に、コーラスで慰問をしている。
今では、町のあちこちで、この老夫婦の知り合いが増えて、時には相談事も持ち込まれる。
難しい相談に、二人が特別な知識を持っているわけではない。
ただ、和やかで包み込むような雰囲気と、たどたどしい話でも、
最後まで柔らかな表情を崩さずに聞き入る本物の親切心が、
訴える人の心をほぐして、自分でもなんとかなりそうだと、気持ちを切り替えるのに役立っている。



・「ドイツ語歌詞は発音が面倒ですから、大きくカナ振っておきますよ」
語り掛け、書き込みをしているのは、とても小柄な老婦人。
横に座った初老の男性は、緑内障を患っているので、視野が狭く、
クラシックの譜面の歌詞には、いつも苦労している。
二人は、他の数人の仲間と共に、月に2回の音楽教室に通っているうち、
こんな協力関係が当たり前になった。

男性は、教室通いも、もう限界だと何度も考える。
しかし、自分より年上の老婦人が、親切に助けてくれるたびに、
もし、ここで辞めたら、生きている証みたいなものが一瞬で消えて、命も消えるような気がする。

あの人は、このことを見抜いていて、自分を励ましてくれているのかもしれない。
やっぱり死ぬまで続けよう。
お礼に、レッスン終了後の茶話会には、おいしいお菓子を差し上げよう。



・親切、深切。 親しく、深く、切なく心に響く、いい言葉。



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