笑・プラザ


OKADA'S BACKNUMBER
コンコンコン カンカンカン

ちょっと疲れが残っているようだ。リズムが悪いな。
沖田さんは、ずっと木彫を趣味にしていて、今年、喜寿を迎えた。
子供や孫もそれぞれしっかり生きているので、とても満足している。
3か月前だったか、長女がメールで、喜寿祝の旅行をしませんかと誘ってくれた。
沖田さん夫婦は即座にオーケー。
あとは子供達の企画にまかせることにした。
子供達3家族には、それぞれに都合があるので、
何度も相談の結果、東京と静岡県の日本平を観光して,二日前に帰って来たばかり。

―――――――――

「あなた、お茶がはいりましたよ。
おいしいお饅頭もありますよ。休憩しませんか」


奥さんの涼乃さんも、来年、喜寿を迎えるが、気持はとても若々しい。
今度の旅行でも、あれこれとアイデアを出してリードして来た。

「ああ、ありがとう。じゃあ」

「それにしても、今度の旅行は、すごく楽しかったですよね」

「ホント! 帝劇のミュージカルは、すごく迫力のある踊りだったし、
日本平のホテルは云うことなしの素晴らしさだったねぇ」


「ウフフフ あの広い広い芝生の庭で、富士山をバックに、ふたりで踊ったんで、
子供達も大喜びしてましたものね。あれは気持良かった」


「アッハッハッハッハ なんか自然と体が動いたもんね」

「そのあとの、ホテルの昼食は、ドーンとデコレーションケーキ買って、
ゲンちゃんに上手に切り分けてもらったのも、なんか懐かしいですね」


「ゲンちゃんは、小6になって、ずいぶん大きくなったけど、
気は優しくて力持ちっていうのは、あの子のためにあるようなもんだねぇ。
思い出すたびに目がうるむんだ」


「そんな大げさな。何かあったんですか?」

「日本平では、男組と女組に分かれて部屋を取ったろ。
私はゲンちゃん親子と一緒なんで喜んださ。
おいしい夕食が済んで部屋に戻ったら、
少し休憩してから風呂に入ることにしたんだけど、
豪華な浴室なので、いろんなコックがあったりして、こりゃあ面倒だって言ったら、
ゲンちゃんが、スイスイやってくれたのには感心したね」


「今の小学生は立派なもんですよ」

「それで、ゲンちゃん親子に先に入ってもらって、
ベッドで休憩していたんだがね、お父さんが出て来ても、
ゲンちゃんがなかなか出てこないんだ。
気になって様子を見に浴室覘いたら、一度洗い流した浴槽に、
ゲンちゃんが向う向きに座り込んで、コックを細かく調節しながら、
私のためにお湯を張ってるんだ。
そして、私に気付くと、さっと洗い桶で湯をすくって、
『じいちゃん、湯加減これでいい?』って訊いてくれたんだよ」


「まあ、そんなことがあったの。まあ!」

「両手に桶を捧げ持ったような姿が、
今でも目に焼き付いてて、胸がいっぱいになるよ」


「ふーん、そうでしょうね。
それにしても、今度の旅行は、家族同士の心がしっくり通い合って、
今までより、ずっとずっとひとつになった感じですね」


「いやあ、ほんと。それでね、みんなに何か記念になるような
プレゼントしたいって考えていたんだけどね。こんなのどうだろう」


沖田さんは、机に向かうと、改まった顔つきで、半紙にさらさらと書き下ろしました。



------  三つの宝  ------
朝 に 希 望
昼 に 努 力
夜 に 感 謝



「これを版木で刷って見ようと思うんだけど、どう?」

「いいんじゃないですか。同じような言い方が他にもあるけど、
私達は、いつもこれを思って、真剣に生きて来たんですものね。
そうは云っても、ずいぶん辛い時もありましたよね。
こんなにきれいに、毎日過ごせたわけじゃなかったけど」


「まあ、押しつけがましい標語だと軽くあしらわれないで、
じいちゃんばあちゃんの生きざまが伝わってくれるといいね」




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