笑・プラザ


OKADA'S BACKNUMBER
「ヒャー かわいい! あなた これ見てよ」

「どうした?」

新聞のスポーツ欄に見入っている宇田さんのところに、
奥さんが、ニコニコしながら、小さなパンツを持って来ました。

「なんだ、ずいぶん小さなパンツだな。私の物じゃないよ」

「あたり前ですよ。この間、泊りに来た剛君が、
着替え分を、忘れて帰ってしまったんですよ」


「それにしても小さいな。少し傷んでるが、
それでもちゃんと前があいてるね。ハハハ」


「あなた、今日は日曜日でしょ。
あの子を連れ出して、スポーツセンターに行きませんか。
あそこなら、レストランや家具店、大型スーパーや
家電量販店まで揃ってますから、屈しませんよ」


「うん、そうしようか。
じゃ、お父さんの許可をもらおう。
タクシーで迎えに行くと言おう」


ほどなく、孫ちゃん、じいちゃん、ばあちゃんの三人連れが、
スポーツセンターに現れました。

新年の装い華やかに、新春大セールとか、今年こそ夢を叶えようとか、
明るい日本今ここにとか、大きなポスターが、
あちこちに貼られて、浮き浮きさせます。

「あなた、まず剛君のパンツを買いましょうよ。ねエ、剛君」

「エッ、僕、パンツいらないよ。家にたくさんあるもん」

「そうなの。じゃ、ほかに欲しいモノある? お正月のプレゼントにしますから」

「それなら。うーん。――あのね、・・・・・・」

「エッ、よく聞こえなかった。もう一度云って」

「デンシ ピアノ」

「エエーッ! 電子ピアノですって! あなた、どうします!」

「今のキーボードはね、古いのを頂いたんで、少し音が出にくくなったりして、
せっかく学校で習った曲が、うまく弾けなくなってるんだよ」


「まあ、そうなの。剛君は、いつも、すごく上手に弾いていたのにね」

「フーム!思いきったこと言われたねえ。
でも、とにかくそこへ行って見ようよ」


一人浮き浮き、二人モソモソで、家電量販店の電子ピアノ売り場に来てみると、
客はまばらで、ピアノメーカーから派遣されたスタッフが、何人か立ちん坊しています。

「こんなに沢山の機種があると、どこから始めたらいいのか、さっぱりわからないね」

戸惑っている三人を見て、若い美人スタッフがゆっくりと近寄ってきました。

「電子ピアノをお探しですか。どなた様が弾かれるのですか」

それから、丁寧な説明と一緒に、いくつかの機種を試し弾きして、

「お客様には、これがピッタリだと思います。
鍵盤は木製で、グランドピアノの感触にそっくりですし、
バイエルも全部入っていて、自動演奏もしてくれますから、
弾き方の参考にもなりますしね。
そうですね、お値段は、少しお高くはなっていますけど、
ここのリーダーさんと交渉して頂ければ・・・・。今,呼んで参ります」


ほどなく現れたのは、いかにも真面目そうな中年男性でした。

「いらっしゃいませ。今、いろいろお聞きしました。
残るのはお値段の話なんですね」


「いやー、実は、私たちは年金生活しているもんですから、
恥ずかしながら余裕が無いんですけど、
正月だし、なんとか、この子の夢を叶えてやりたくなりましてね
それにしても、電子ピアノは、ずいぶんお高いんですね。ハハ」


「ところで、失礼ですけど、いかほどの御予算ですか・・・
エッ、それだと3割引きになりますね。
ウーム、すでに特別価格の2割引きにはなっているんですが、ウーム」


やり取りを傍で聞いていた剛君の顔が、みるみるうちに曇ってきて、
肩を落とすと、ピアノから目を逸らして横を向いてしまいました。

それが、あまりに可哀そうな様子なので、りーダーは目のやり場に困り、
あらためて祖父母の身なりを見つめ直しました。

正月なのに、とても質素な装いで、つつましく暮らしている様子がありありです。

もう一度、打ちひしがれたような孫の様子を見た時に、
不意に、我が子のイメージと重なりました。うちの子と同じ小学4年だとか。
夢一杯に輝いていて欲しい子に、すごくがっかりさせてしまった!

「わかりました。3割引きで結構です」

「エエッ、ホントですか!
ありがとう。無理を言って申し訳ない」


話を聞いた瞬間、剛君は踊り上がって頬を紅潮させ、
両手でVサインを振り回しました。
手続きを終えて、三人、足取りも軽やかに帰る途中で、奥さんは、

「あなた、お父さんに電話したら、すごく恐縮してましたよ。
今のキーボードの所に置くそうです」


「それは何より。それにしても、小さなパンツ買おうとして、大きな買い物したね」

「それに、剛君も大きな夢が手に入れましたよ」

「そのとおり! 将来は大音楽家になるかも」

「期待し過ぎぎですよ。プレッシャーかけて潰してしまったら元も子も無い」

ワッハッハッハッハ  アッハッハッハッハ  ランラランララン



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