笑・プラザ


OKADA'S BACKNUMBER
今年は、大雨、酷暑、大干ばつ、大洪水、大地震、竜巻などの天災が、
今まで経験したことのない規模や猛烈さで地球を覆いました。

このため、食料や資源の高騰につながり、人々の活動にも制約が出て、
GDPを押し下げるなど、不景気風が一向に収まりません。

ここまで来ると、いい加減にしろと言いたくなるのは人情で、
何かで発散したくなります。

ある日、ここ船山町の定例の世話人会が開かれましたが、
欠席者も多くて湿っぽい話ばかり。
そのうち、みんな黙ってしまったので、
予定より大分早いが散会しようという雰囲気になった時に、
突然、小さな工務店の会長をやっている常山さんが、

「あのなあ、みんな、このままではいかんがな」

と声を出しました。

常山さんは84歳の最高齢者だし、日頃は殆どしゃべらない人なので、
みんなびっくりして一斉に常山さんを見つめました。
常山さんは何か思いつめたような顔で、みんなを見回しながら、

「いやな、世の中難しすぎて、手も足も出ないよな状態に追い込まれていることはわかるが、
このままずるずると年を越すより、ゲン直しの年末行事をしてはどうかと思うんだ」

「うーむ。それはわかるがな、金も無いしなあ」

「金は無いけどな、まあ、できれば、みんなで何か持ち寄って、
とにかく、こんな時こそ助け合って行こうという行事をしたらどうかな。
飲み物は、今までお世話になっていた飲料会社の張基さんに頼んで、
試供品や景品の残り物でいいから寄付してくださいって頼むつもりや。
実は、内々の了解はもらってるけどな。どうかな」

それから急に会が盛り上がり、アアしようコウしようと何とかプランがまとまりました。

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いよいよ「年末盛り上げ祭」の日が来ました。
冬なので、年寄りの人にも参加しやすいように、昼の12時から開場しました。
会場は町の小さな児童公園。ここの立ち木から立ち木にかけて、
常山さんが持ってきた2段はしごを横に掛け渡し、ブルーシートを天井と横に張って、
冷たい風を防ぐことにしました。

真ん中には白線で3メートル角ぐらいのステージも作り、
周りには、有志が持ち寄った材料や道具で、出店も何軒か出来ました。
準備が整うと、開場のブザーが鳴り響き、天井のスピーカーが話し出しました。

「みなさま。今日は、お忙しいところを、有難うございます。
わたくしは杉野でございます。
今、脳梗塞のリハビリで、隣の市民病院にお世話になっております。
この催しは、みんなで助け合って、頑張りましょうという思いを込めた、
素晴らしい催しと伺っております。
どうか、今後とも、皆様お元気で明るい日々をお過ごしになられますようにお祈り致します。
また、お会いできる日を楽しみにしております。
本日は、どうも有難うございます」

〜〜エエー! いまの、杉野さんなの! 前の婦人会長さんよね。
きっと80は過ぎてるはずよね。ずいぶんしっかりしゃべってたわね〜〜

〜〜あれはね、常山さんが、わざわざ病院へ行って録音して来たそうよ。
病人だって、町のために何かできるはずだってことでね。〜〜

〜〜ふーん。この会にピッタリのやりかたよね〜〜

この頃には参加者も200人ぐらいになって、
開場は食べたリ飲んだりしゃべったり、とてもいい雰囲気になってきました。

「みなさーん。ここで、取っておきのすばらしい芸をおみせしまーす。
どうかステージの周りにお集まりくださーい」

張りのある声でマイクで元気よく呼びかけたのは、副会長の沢山さんです。

〜〜なんだろね。沢山さんって、長いこと空手やってる人じゃないの?〜〜

「これからお見せするのは、テコンドーです。テ コン ドー でーす」

〜〜なによ?テコンドーって〜〜 

〜〜なんか空手に似た競技じゃないの〜〜

「ただいまから選手が入場しまーす」

テントの陰からお母さんに手を引かれて出てきたのは、
なんと、3才ぐらいの女の子と、2才ぐらいの男の子でした。
それぞれに赤と白の柔道衣を着て、小脇に小さなお面を抱えています。

ふたりがチョコチョコと舞台に上がると、会場は和やかな雰囲気に包まれ、
可愛いいかわいいの連発で盛大な拍手が巻き起こりました。

「それでは始めます。お面をかぶってください。
―――ハイッ。かまえて。始めっ」

同時にスピーカーからは、明るく軽やかなリズムが流れ出しました。

〜〜キャー、二人とも沢山さんのお孫さんよね〜〜

〜〜そう、お姉ちゃんはナッちゃんで、弟さんは大くんよ〜〜

二人はリズムに合わせてピョコンピョコン飛び上がりながら、
手を突き出したり、足をちょこなんと蹴り出したリします。
きっと一所懸命に斗っているつもりです。

だがいかんせん、足が短いのでまったく相手に届きません。
なにか、チョコナンチョコナンと踊っているようで、満場大爆笑です。

そのうち大君が回し蹴りで、クルリクルリと後ろ向きになりながら片足を後ろに跳ね上げます。
短い短い足ですから、後ろ向きにかかとがちょっと上がる程度です。

小さな子の飛び跳ねダンスみたいですが、防具の物々しさがアンバランスで、
どうしようもなく可愛いし、滑稽です。

もう、会場は、大笑いと拍手と声援で割れんばかりの大騒ぎ。
笑い転げて、隣の人にしがみついたり、涙が出すぎてよく見えなくなったりの有様。

ころあいを見て、沢山さんがマイクを掴みました。

「やめー! この勝負引き分けー!  選手は礼!」

二人の子はピョコンとお辞儀をしあうと、お母さんのところに駆け寄りました。
お母さんは、優しくお面をはずし、二人りの背中を撫でさすって、なにか話しかけています。

会場から、ご褒美ですと言って、
おいしい蜂蜜のたっぷりかかったワッフルとジュースが差し入れられました。

「有難うございました。すばらしい芸でした。でもすごかったですねえ」

司会者のマイクが響くと、会場はもう一度どっと沸きかえり、
小さな子達は、物まねをして得意がっています。

とにかく、すばらしいショウでした。だれもが幸せな気分になれるショウでした。

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“もういくつ寝るとお正月”を全員で合唱すると、会はお開きになりました。
参加者は、なぜかやすらいで豊かな気持ちを感じながら、それぞれの家路につきました。
冬の夕暮れは早く、寒さもすこし加わった感じですが、
やっぱり、どんな事があっても、みんなと打ち溶け合うのは心が暖まるし、
安心も出来るなあと、今さらのように強く思い返される一日でした。



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