笑プラザ


チロリン チロリン チロリン・・・
枕許の電話が意味あるげに鳴り続けている。
こんな時間だから、よっぽど無視しようかと思ったが、
やっぱり気になって、しぶしぶ声を出した。

「もしもし・・・」

「ああ、すまんなあ、もう寝てたんか?」

「なんだお前か。こんな時間になんだい? 事件でも起ったのか?」

「そんな大袈裟なことじゃないが…。あのーなぁ。
 この頃、夜中になったら、淋しくてたまらんようになって、
 せめて誰かに電話したいと思ったが、電話できるのはアンタだけなんだ」


「オイオイ。妙なことを言うなあ。お前の娘さんなら、
 気安く慰めてくれるんじゃないか?」


「いやー、それがそうは行かないんだ。
 その娘のことがきっかけで、こんなことになったと思うよ。
 少しいいかい? 最近、娘が旦那の転勤で、
 ここから一緒に東京へ行ってしまったのは知ってるだろう。
 転勤話を聞いた時にゃ、女房なんか、ワリと平気そうだったが、
 わしは、恥ずかしながら、もう、生きてる意味が無くなるほどショックを受けたんだ。
 あの子はわしの宝なんだ。
 オイ、笑わないで聴いてくれよ。そりゃ、女房はしっかりもんで頼りにかるが、
 今は、故郷に帰って寝たきりの母親の面倒みてるから、
 悩み事なんか電話しにくいなあ。淋しいもんよ。」


「フーン。まあ、事情は分かったが、淋しくなったのはそれだけかい?」

「ウーン。絶対に笑うなよ。あのなあ、最近、気が滅入ることが続くんだ。
 たとえばな、風呂場の水道の栓を閉め忘れて一晩中垂れ流しになったり、
 回覧板を廻し忘れたり、ミルクが入ったコップにウーロン茶を入れて
 電子レンジに入れたり、そんな変なことが続いてるんだ」


「ワッハハ、ワッハハ、ワッハハ。そんなこと誰にもあるだろうが。
 うん、なに? まだまだあるのか・・・・。
 分かったわかった。それにしてもよくがんばってるなあ」


「頑張ってるって? なんのことだい」

「いやな、変なことをいろいろ頑張ってるって冗談さ」

「……………………」

「気を悪くせんでくれよ。いやな、わしにだって、そんなこと
 しょっちゅうあるけどな、そのたんびに、アア、ボケたなとか、
 自分が情けないなんて考えてたら、
 そりゃあ、気が滅入ってすっごく淋しくなるのは当たり前だろ。
 そこでな、ひとつ、参考までに、わしのやり方を言ってもいいかい?
 うん、簡単に言えば、変なことがいろいろあっても、それに捉われて、
 いろいろ考え過ぎないようにしたいんでな、ほかのことをいくつか目標にして、
 毎日、それを実行するわけよ。
 たとえばな、挨拶は大きな声ではっきりするとか、
 朝起きたら、5分間は柔軟体操するとか、簡単なことでいいんだ。
 これは続けなきゃならんから、わしは、願(がん)張るって名前つけてる。
 つまりな、願張る事に目をむけて、ちょっとした失敗ごとは横へ置いとくわけさ。
 前見て生きるためにな」


「なーるほどな。言われればそういうことだよな。
 なるほどな、願張って生きるんか。字が違えば意味も変わるな・・・」


「ちょっとでも分かってくれたら嬉しいな」

「いやあ、有難う。長話で気が軽くなった。夜中にすまんかったな。
 また、会おうや。じゃあな、お休み」





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