笑プラザ


「ねェ お父さん ハポンってどこにあるの?」

「うん、それは、地球の裏側の小さな国のことさ。
 でも、なんでそんな国の事を知りたくなった?」


「うん。今日ね、学校で自由研究の発表会があってね、あのオハマ君が、
 ハポンで大きな地震やツナミとかがあって、すごくたくさんの人が死んだし、
 ぼくたち子供もたくさん死んだって報告したのさ。
 インターネットで写真まで撮ってきてみんなに見せたから、
 先生も感心してとても褒められたんだ」


「そのとおりさ。おまけに原子力の発電所まで壊れて、
 放射能から逃げるのに大騒ぎになったんだ」


「お父さん、ここはいいとこだねェ。
 ツナミなんか見たこともないし、発電所から逃げる必要もないしねェ。
 それでね、オハマ君が、とてもいい気分になったのかなぁ。
 みんなでハポンの子供達をを応援しよう、お金集めようって言ったわけ」


「フーン」

「そしたら先生がね、お金集めるんだったら、
 お父さんやお母さんに聞いてごらんって言ったんで、聞いてるのさ」


「フーン、そんなことがあったんか。うーん」

「お父さん、どうしたの? 急に怖い顔になって」

「トーマ、しっかり聞きなさい。そんな話なら、お父さんは絶対反対だ。ダメだ。
 何年か前には、お前だって、とても怖い思いをしただろう。
 家が焼かれたり、側で何人も銃で撃たれて死んだり、
 お母さんだって死んでしまったんだ」


「とっても 悲しいよ。お母さん、会いたいよーー。
 ウェーン ウェーンーー」


「トーマ、お父さんだって泣きたい。みんなを苦しめてしまってーー。
 だがね、どんなに苦しくたって、命を狙われたって、お父さん達は頑張ったんだ。
 今までのように、一部の人たちが豊かになって、
 貧しい人はいつまで経っても仕事がないから、食うや食わずで一生が終わるなんて、
 とても耐えられなかったんだ。
 自由が欲しかったんだ。だから、政府にみんなで歯向かった。
 お父さんもリーダーになって命がけで戦った。
 なのに、ハポンは、こんなときに我々を助けてくれなかった。
 それどころか、この国に住んでいた人たちが
 サッサと飛行機で逃げ帰っててしまったんだ。
 今になってね、やっと政権が変わった。いろいろと制度も変わった。
 だけど今でも失業者が多いし、産業もなかなか発展しない。
 だから少しでもお金があるなら、この国に寄付したらいい」


一気に、お父さんはしゃべり終わると、大きく肩で息をしました。
トーマ君は、まだしゃくりあげながら、ハポンの事より、
やっぱりお母さんのことのほうがずっと大切なことなんだって感じていました。

この場に居合わせて、父と子のこんなやりとりをじっと見ていた男は、
なぜか、深く胸を抉られる気分でした。
彼は、日本から派遣されたNGOのメンバーで、混乱した国の、
経済の建て直しに貢献するために、この日は、改革の元リーダーを尋ねて、
いろいろと教えてもらおうとしていたのでした。

客観的に考えれば、政治の変革と天災の話は違うし、
日本政府が、外国に駐留する国民の安全を守るためには、
騒乱現場から引揚げるように指示したのも正しかっただろうし、
この国の自由化運動には、間接的に援助もしたと思っていますが、
こんな理屈っぽい話は、まったくする気になりませんでした。

なによりも痛感したのは、国際社会では、
誰にもはっきり分かるような行動をしなければ理解されないし、
そうすれば敵もいれば味方もいて、とても大変なことはわかるが、
それでも、中途半端な中立や様子見の姿勢は、とても卑怯なやり方だと思われて、
だんだんと日本の存在感が薄れていくことになるということでした。

新興国では、ここのお父さんのような、筋金入りの気骨の人物が引っ張って、
少しづつ強力になり、やがて日本を抜き去って、世界での発言力を高めてゆくんだなあ。
自分の国の政治は、相変わらず身の回りの駆け引きに明け暮れているようで、
精神的にも、すっかり歳とってしまったなあ。フー。 
トーマもお父さんも驚くような大きなため息でした。




▲このページのTOPへ