笑プラザ


「モシモシ! マアちゃんのお母さんですか!」
100円ショップでパートさんをしているマアちゃんママのケータイが、
ただならぬ雰囲気で叫びました。学校からの緊急連絡。
「ハイ、わたしです。何かあったんですか!」
「落ち着いて聞いてください。マアちゃんが指に怪我をして、
 今、学校近くの愛々整形に向かっています。
 出来るだけ早く来ていただけませんか。」

マアちゃんママは、手にしたボールペンの束を思わず取り落とすと、
必死にケータイを耳に押し当て叫びました。
「どうしたんですか! だいじょうぶですか! 痛がってませんか!」
血の気も引いて、近くにいた買い物客が心配そうにちらちらと見ています。

すぐに店長さんの了解を取って愛々整形に走りました。
マアちゃんの学校の後ろ側にあるので、そこまでの学校の塀が、
とてつもなく長く感じられて気ばかり焦ります。
病院の受付に飛び込むなり、
「マアちゃんどこですか!」
頭が真っ白でまともな名前が出てきません。
「エッ、あの?」
受付なんて、なんでこんなに冷静でいられるんだろう。早く、早く!
声を聞きつけて、担任の先生が走り寄り、
廊下を案内しながら優しく語り掛けます。
「今、院長先生が、レントゲン撮って診察しておられます。診察室に入りましょう。」
ソローっとドアを開けると、
年配のどっしりしたナースさんに抱きかかえられたマアちゃんが、
涙でくしゃくしゃになった顔をパッとこちらに向けると、
そのつぶらな瞳からドーっと涙が溢れました。
いつも元気で人気者のマアちゃんでも、まだ小学1年の女の子。
お母さんの顔を見るまで、どんなに心細かったことか。
--- お母さん!抱いて欲しいよ! ---
「マアちゃん! 遅くなってごめんよ! 痛いの? だいじょうぶ?」
「お母さんですか。だいじょうぶですから、まあ、落ち着いてください。」
「あ。ごめんなさい。失礼しました。」
「じゃあ、説明しましょう。とにかくあんまり痛くないはずですから安心してください。
 このレントゲン見ると、左手の薬指が剥離骨折していますが、ほかは異常ありません。
 下校中に転んで地面に強く指を突いたようで、この程度で済んだのは不幸中の幸いでした。
 指先はうっ血で腫れていますが、化膿しないように血は抜いておきます。
 それから、指にサポーターをつけて固定しておけばいいと思います。」

言われてマアちゃんの指を覗きこむと、根元まで紫色になっています。
マアちゃんの黒い瞳が、じーっとお母さんの目を見つめて、
--- わたし、だいじょうぶなの? お母さん! ---
と語りかけてきます。
--- 一番頼りにしているお母さん、助けて欲しいよ! ---
お母さんは、黙って、大きく力強くこっくりしました。
それを見て、マアちゃんがやっとこわばった顔を緩めました。
信頼できるお母さんの励ましは、どんな薬よりも効くのでしょう。
指先のうっ血を注射針で抜くときにも泣きませんでした。
「さあ、マアちゃん 指にこれを付けて終わりにしよう。」
薬指の下側に細長いステンレス板をテープで巻きつけて、治療は終わりました。
「このまま、はずさないように。来週、来てください。
 まあ、1ヶ月はかかるでしょう。」

「有難うございました。本当に有難うございました。」
深々と頭を下げるお母さんは、一瞬、この静かな院長先生に神の気配を感じました。
「マアちゃん、よかったね。いい先生に診てもらえて。」
言いながら、お母さんは、ぐっとマアちゃんを抱きしめると、
担任の先生は何度も頷き返しました。
すると、今度は、マアちゃんに代わってお母さんの涙が止まらなくなりました。
どうやら、純粋で愛に満ちた涙に恵まれた母子のようです。
1ヶ月で治りました。 子供の回復力はすばらしい。



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