笑プラザ


すっごく仲のいいシニアグループ10人の、
定例懇親会々場は、いつものカラオケ喫茶店。
オーナーが親切で、1000円の会費にドリンクやおつまみまでつき、
ケーキやフルーツも持ち込み自由なので、
プライドだけは高くても経済的にゆとりのないメンバーには大助かり。
(もっとも、家族や子どものために、お金を残しておこうという人達なので、
ほんとは豊かな人達なのだろう)。
みんな、歌だって本格的(ーー自称だから、あてにならないレベルーー)だから、
歌いだしたら、カンツォーネやシャンソン、ジャズや日本歌曲など多彩で賑やか。
ひとしきり叫びあった後で休憩タイム。
――この時を待ちかねたように、いつでも最初に喋りだすのは支柄さん。
年中あちこちのシニア施設や病院を回って、日本の懐かしい歌を歌っているので、
その線で、時には、なるほどなるほどと考えこむような、切ない話も紹介される。
みんな勝手なもんで、こんな話に出会うたんびに、自分の幸せを再確認してる。
顔を見合わせては、自分たちには何もなくて良かった良かったって頷きあってる。

ところで、今日は、珍しいことに、
宇田野さんが大きなギターを背負って参加してくれた。
宇田野さんは、半年前に、自転車で家に帰る途中にバイクに撥ねられ、
肋骨や指の骨を折る大怪我をしたから、
入院やリハビリでこの会にはしばらくご無沙汰してた。
今日はオーナーが、宇田野さんの復帰を祝って、
大きなデコレーションケーキを目立つ所に飾ったりした。
和やかな雑談がひとしきり済むと、
宇田野さんは、ケースから大事そうにギターを取り出すと、

「みんな心配してくれてありがとう。おいしいケーキも頂いたし、
 きょうはお礼に、下手なギターでお返ししようと思ってーー」


「いよーー、待ってましたーー」

パチパチパチパチ

「けどなぁー、この指がまぁだうまく曲がらんのよ。
 強い音出したら音が濁るんで、堪忍してや」


「どもない、どもない。早く聞かせてや」

「なんなら、一緒に合唱してもらったほうが張り合いがあるし――、
 あのー、四季の歌やるから、合わせてや」


「やろうやろう」 「まかせてください」

パチパチパチパチ

宇田野さんがバッグから楽譜を取り出したので、見せてもらおうと、
みんな回りをとりかんこでみたら、オッ!。
大きな楽譜はギターの音符だけで、歌詞はまったく無し。

「はぁて、春、夏、秋、冬ごとの歌詞がどんなだったか自信ないなあ」

委細かまわず、宇田野さんは、

「いくよーー」

なかなかしっかりしたギターの調べ。

♪♪はーるをあいする人はー、こーころつよき―ひと――♪♪
 ♪♪ーーこーころやさしひとー―♪♪


予定通り、歌詞がバラバラ。
自分で作詞してしまう人もあり。
とにかく、ムチャクチャの歌詞でめでたく歌い収め。
みんな自分の歌詞が正しいとばかりに大声を出すから、
奇妙な合唱で、そりゃ最高の出来栄。
歌っちゅうもんは、こんな風に心の叫びが基本だってことを改めて理解。

「ご苦労さんでした。みんなどんだけいい加減かわかった、すごい!」

ギャハハハハー。

「若いときにゃ、しっかり覚えてたのにーー」

「ムリ、ムリ。最近は、忘れるし集中力が無くなるし、
 もう、脳ドックしてみる必要がありそうだよ」


「エッ、あなたね、脳ドックなんて簡単にいうけど、
 もし、脳に動脈瘤でも発見されて、
 定期的に検査しなさいって言われたら、どうします。
 あなたは心優しい方だから、きっと、毎日そのことが心配になって、
 こんな会だって遠慮して、ひっそり暮らしたいってことにもなるんじゃない。
 勝手に病気の心配をするのもいいでしょうけど、
 脳だけはなんか違うような気がするんだけど」


「うーん、そう言われればそうかもしれん。
 取り越し苦労なんかせずに、なるようになれってこと?
   そんときゃそんときって割りきったほうが気楽かもなあ」


「ともかく、こんな楽しい会で発散してりゃ、なんかいい事あるだろうよ」

(しかし、ホンネでは、自分だけは何にも無いようにって、一生懸命に祈ってる)
マスターは、急にみんなが暗くなりかけたので、そんな不安を和らげようと、

「それじゃ、次も、なんか、ギターで歌詞隠しの合唱やりましょうや。
 元気にやれる曲がいいんだけど」


「賛成、賛成、絶対おもしろい」

医者から見れば、ご都合主義で、弱み隠しの虚勢なんか張らずに、
さっさと検査したらいいのにと思うことでも、
結局は個人の考えひとつで決まること。
今月の定例会は、勢いでメデタク終わりました。
これからも無事に長続きしますように。

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