笑プラザ


「それにしてもこの招待状、なんかすごいね。
 “史上最高のデュエットショウ”とは恐れ入った。
 おまけに限定10人の特別招者の中に入れてもらったけど、光栄なのか迷惑なのか」

弾野(はじきの)さんが言うと、
「まったくあいつのやる事は理解に苦しむなあ。
 しかし、せっかくだから付き合ってみよう」

と小木さんが応じました。
―――――――――――
いよいよ“史上最高のデュエットショウ”の開幕です。
豪華なラウンジでは、ゆったりしたソファに豪華料理が運ばれ、
コンパニオンも数人が待機しています。
気心知れた10人の招待客は男5人に女5人。
しばらくの間、やあやあと近況を語り合いながら、
なぜか妙に期待を膨らませています。

―――それまで柔らかく流れていたBGMがフェードアウトし、照明も絞られました。
話し声は止み場内はシーンと静まり返りました。
サッと、無人の舞台にスポットが当たり、
ミラーボウルの眩いカクテル光線が交錯する中、ほど良い間を置いて、
歌劇リゴレットの中で歌われる“女心のうた”がオーケストラ演奏で力強く流れ始め、
あいつこと両頭(りょうず)さんが蝶ネクタイ、
シルクハットにステッキ姿で颯爽と登場しました。
一瞬、度肝を抜かれた会場からは、ドーッと歓声が沸きあがりました。
日頃見慣れた両頭さんの、まるで別人の変わりように、
ただもうそれだけで会場は熱狂状態。

――すこし音楽が細くなると、両頭さんが落ち着いた声でご挨拶。

「皆さん、本日は、このささやかな催しにお越しいただきまして、
 まことに有難うございます。さっそく開演とさせて頂きます。
 どうか最後まで楽しくお付き合いいただければ幸いです」

「ワオー」パチパチパチ、、、、、、、、
「ところで本日は、突然ですが、皆様にご出演をお願いするかもしれませんので、
 ぜひ、お引き受けいただきますように、お願い申しあげます」

「エエッ!! そんなあー!!!」
急にガヤガヤとなった会場を尻目に、両頭さんはさっさと退場しました。
微妙な間合いで、静かに曲が流れ始めました。
招待客の全部がクラシックに造詣の深い人たちなので、
それがマスカーニの“アヴェ・マリア”だとすぐに分かりました。
ソプラノの詠唱が始まる直前に、両頭さんがスポットライトと共に現れ、
ラテン語のテノールで歌い始めました。
これがバックのソプラノと絶妙なデュエットになって、なかなかいい感じ。
もう、みんな瞬間に理解しました。
世界最高の歌手やエンタティナーと一緒にデュエットするこの仕掛け。
ウオーとかヒャーとか拍手とか場内騒然。
しかし、すぐにそれも静まりました。
しっかり聴きたい、いい歌だもの。
緊張が解けて盛大な拍手で迎えられた2曲めは、
”オペラ 蝶々夫人”の中で歌われた“ある晴れた日に”です。
清々としたソプラノとテノールの詠唱は、
デュエット用に編曲された曲を使っているようで、
しっかりと説得力をもった出来栄えです。
会場は、もう、両頭さんを“あいつ”と言う人はなく、
むしろ尊敬の念さえ覚えている様子です。
この後、日本の歌曲も何曲か披露されて休憩タイム。――
両頭さんも加わっての談笑の後は、参加自由の飛び入りタイムの始まり。
配られた曲目リストを見ながら、超一流歌手のCDをバックに、
男女適当にデュエットして最高に盛り上がりました。
これぞ、史上最高のデュエットショウの名前に恥じないイベント。
―――――――

両頭さんは、心から楽しみながらも、
一方では、少し不況の影も見え隠れする高級バーやラウンジも、
ありきたりのカラオケサービスだけでなく、
クラシックや歌曲ファンの歌唱発散の場として、
新しいお客を呼び込めることができればいいな。
と堅いことも考えていました。
両頭さんの、お役立ちの飽くなき挑戦はまだまだ続きます。

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