笑プラザ


「あいつ ホントにやるなぁ」 「ウン ウン」
ここ、金沢市内でも高級ラウンジで通る“スリエント”で、
馴染み客の弾野(はじきの)さんと小木さんが
金モール入りの招待状をひらひらさせながら笑顔を見せています。

「あいつな、そうそう、君は行かなかったが、
2ヶ月前に佐渡観光の招待状もらって行ってきたときのこと、思い出すなあ」


「ああ、聞いた、聞いた。あいつ、観光バスの運転手やってるって話だろ。
ビックリしたよなあ、もうーー。実家はここでも指折りの資産家だし、
後継ぎのあいつにゃ、なんにも不自由なんかないはずだろうに」


「ウッハハ。今までスポーツカー乗り回してて飽きてしまったんかな。
大型ならもっと面白いってことかな。 そこでよ、あいつのバスの話に戻ると、
佐渡は海岸べりの曲がりくねった狭い道が多くて、下は断崖さ。
あいつは結構、器用に運転しとったが、
それにしても、ホンネじゃハラハラしてたら、それがすっごくイカンのさ」


「どうした、事故ったか?」

「いやさ、そんな崖っぷちの道中で、バスガイドが”佐渡おけさ“を歌い出したんだ。    
なかなかの美声でよかったな。
ところがよ、―−ここで、運転手さんの“おけさ”をお送りしますーって突然言うんで、
ありゃぁと思ったサ。ややこしい道を運転中だろうが」


「そりゃ、おっかないねえ」

「心配なんぞおかまいなしに、あいつの佐渡おけさが始まった。
♪ハア〜〜さど〜え〜〜♪ 
あいつはグリークラブに入っていたから結構な出来栄え。
それはいいんだが、そうして歌いながら、
小さなトンネルへズバーって入って行くのにゃ驚いたさ。
もう、スリル満点。 3番まできっちり歌い終ったときにゃ、
乗客全員がオーとかヤーとか言いながら、そりゃもう盛大な拍手。
こりゃあ、歌が上手だったというより、
とにかく無事でよかったっちゅう思いだったんじゃないかな。
あとで、バスガイドが、
運転手さんはしっかりハンドル握っていましたからご安心くださいってアナウンスしたから、
またまた、車内大爆笑」


「ワッハッハッハッハー。そりゃあ災難だったなあ。
まあ、対向車のほとんど無いところを選んでやったんだろうがね。
とにかく、あいつは変ってるなぁ。すごくバイタリティがあるなぁ」



―――あいつこと両頭(りょうず)さんには、
実はもっと深い思いがあることを、この二人はまだ気づいていませんでした。
両頭さんは、慶応の出身で学友には匆々たるメンバーが揃い、
お互い助け合って何不自由ない暮らしを送ってきました。
しかし、マンネリ化した自分に、或る時ハッと気づいて、
これは自分にも子供にも決していいことではない! と反省しました。
一念発起して、何か社会に役立つことをやろう。それも現場の方がいい。
少しは辛そうな自分の背中を子どもたちに見て欲しいーーー


こうして行き着いたところが、観光に頼るしかなさそうなここの土地でした。
ここでは観光バスが重要な役割を果たしているにもかかわらず、
運転手は責任が重い割に給料も充分でないので、ずっと人員不足でしたから、
両頭さんが申し出ると、大喜びの大歓迎でした。 
今では、観光企画主任という役職もついて、
両頭さんは、現場からのアイデアをどんどん出して、カイゼンの貴重な人材になっています。

家族も理解して、みんな協力的なので、心の中では、いつも感謝しながら励んでいます。
ただ一つの条件は、給料は半分でいいから、5年で退職させて欲しいということでした。
この土地にも会社にもメドがついたら、どこかの段階で、社会への次のお役立ちも考えたいーーー。


「バイタリティのあいつの招待だから面白いかもしれん。行ってみるか」

弾野さんと小木さんの話はまだまだ尽きませんが、今日はここまで。
面白話は次の号でーー。

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