それはそれは暑い夏の日でした。
太平洋に面した、とある町の防潮堤は延々と伸び、ところどころの階段が
砂浜につながっています。右手には、はるかな先に岬の岩肌と松の緑が見え、
左手には遠く霞む島影が見えます。すぐ後ろの、少し険しい山間からは、
クマ蝉の元気な鳴き声が湧き上がっています。砂浜は太平洋につながり、
この日はさざ波が静かに寄せては返していました。

その一角、はるか彼方の、足跡がひとつも無い広い砂浜に、パラパラ、ワラワラと
小さな人影が現れました。吸い寄せられる眼で、それを確かめると、小学生が、
背にランドセルを背負い、手をつないだり、話し合いながら、楽しそうに、こちらに歩いて来ます。
はっきり見えるようになると、小学校の校章の入った、真っ白な制服に制帽をかぶり、
靴までこざっぱりした、なんとも可愛い子達です。その数16人。
小学1年から3年までの全生徒でした。

映画のロケが行なわれていたのです。この町出身の高名な書家の顕彰映画作り。
その回想シーンの一部として、教育委員会も学校も、いわば町を挙げた協力で子達の通学風景が
撮影されました。やがて、こちらに集まった子達は、ほっとしたように、一斉に水筒を
がぶ飲みして、口々に、「なんか緊張するねー」と笑い合っています。
もう一回、通学シーンは繰り返されました。こんどは、すごくリラックスして、寄せる波を
避けながら、波打ち際をジグザグに走ったり、波に向かって石を投げながら騒いだりしました。
もうすっかり、仲良しの海と戯れている様子がありありです。

「オッケー! みんなありがとうー!」

カメラの後ろで、子達を見守っていた先生も、ほっとしたように子達を集めると、
防潮堤の石段を上がってきました。それに続く子達のしっかりした足腰、底抜けに明るい笑顔、
呼びかける大声、小麦色の肌、あの子もこの子も、みんな助け合う仲良し。
もう、可愛い可愛いとしか言いようのない子達でした。撮影スタッフも、とにかく子達の
純真さと素直さに、いたく感じいった様子でした。
町の人にとっては、毎日の、どうってことのない一こまに過ぎないことなのでしょうが、
俗塵にまみれた目からは、ここは、ここの子達は、俗界を離れた清浄の世界のように写ります。
現世風に考えれば、ここは、厳しい漁業と林業の町。町でただ一軒の喫茶店には、
数十年前のテレビゲームのテーブルが、そのまま何台も客席におかれ、
部屋の隅の客席には、蜘蛛の巣が張っていました。

しかし、ここの子達は、厳しい自然と同化して育つことで、都会では、とっくに失われて
しまった、人間の神性、佛性を温存しているのかもしれません。
なぜなら、その子達に出会った私たちを、清々しく、ほんとに幸せな気分に
させてくれたからです。この子達のうちから、今後も、どこかの分野で、
世界に認められる人物が出ないとも限りません。
それは、きっと、現世の荒海の中でも器用に妥協することなく、
ここで培われた魂の純真さを保ち、強く生き抜いた人物に与えられる尊敬と賛辞とともに。

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